我々の体の中では常に様々な生命現象が生じていますが、その現象は様々なタンパク質によってコントロールされています。
そして、DNAやRNAに代表される核酸は、塩基と呼ばれる物質(A:アデニン、G:グアニン、T:チミン、C:̪シトシン)の並び方によって、様々な遺伝子をコードし、その遺伝子によってタンパク質の機能や構造がコントロールされています。
よって、遺伝子はタンパク質の設計図であり、タンパク質は生命現象をコントロールしていることから、遺伝子は生命の設計図ともいえます。
そういった背景から、遺伝子は当然ながら医療分野でも注目されており、近年「遺伝子治療」の技術が発達してきています。
本ページでは、最近注目されている遺伝子治療の概要と種類について纏めてみました。
遺伝子治療とは、人為的に遺伝子を細胞に導入して治療を行う行為を指します。
種類としては色々ありますが、例えばがんという病気に着目すると、あくまで一例ですが、がん抑制遺伝子というがんを抑制することが出来るタンパク質をコードする遺伝子が何らかの理由によって機能を発揮できなくなり、がん細胞が発生してしまいます。
しかし、がん抑制遺伝子を新たにがん細胞に届け、がんを抑制する機能を復活させることで、がん細胞の増殖を停止あるいは、がん細胞を死滅させることが出来ます。
このように、人為的に遺伝子を導入したり改変したりすることで、病気を治療する技術になります。
次に遺伝子治療の歴史について見ていきたいと思います。
遺伝子治療の歴史は比較的浅く、1990年にADA欠損症の治療としてアメリカで世界で初めて実施されました。
その後1999年にアデノウイルスベクターの大量投与による死亡事故がアメリカで発生したことから、一時は遺伝子治療研究の停滞期を迎えました。
しかし、その後も研究は行われ、2012年に先進国で初めて遺伝子治療製品が欧州で承認されました。
その後、2017年までに7件程度の承認された治療があります。
承認された遺伝子治療例
遺伝子を細胞に導入する技術は、様々な種類の遺伝子治療に利用することができます。
治療技術を大別すると、再生医療、遺伝子治療薬、核酸医薬品に分類されます。
再生医療とは、先天的あるいは後天的に組織や臓器が欠損あるいは機能低下した際に、患者の体外で培養した細胞や組織を用いて修復再生し、機能を補完する医療です。
こちらの技術では、人工多能性幹細胞(iPS細胞)と呼ばれる様々な体細胞に分化が可能な細胞を使用します。
この細胞を作り出すためには、細胞に様々な遺伝子を人工的に導入する必要があるため、一種の遺伝子治療であるとも言えます。
また、iPS細胞以外にも、特定の遺伝子を細胞に導入することで、ある臓器の元となる細胞が形成される報告などもあり、難解ではありますが非常に夢のある技術といえます。
遺伝子治療薬は、患者の細胞に遺伝子を導入し、体内で導入した遺伝子からタンパク質を発現することで疾患を治療する技術です。
現在認証されている遺伝子治療の中心技術となっております。
遺伝子治療薬は、患者の体内に静脈注射や動脈注射等によって、直接投与する方法や、患者から採血や骨髄穿刺によって細胞を取り出し、その細胞に対して遺伝子治療薬を作用させ目的の遺伝子を導入し、遺伝子導入細胞を再び患者の体内に戻して治療する方法があります。
遺伝子治療はまだ安全性・有効性が確立されていないため、重篤な遺伝子疾患、がん、その他の生命を脅かす疾患又は身体の機能を著しく損なう疾患を対象としています。
具体例としては、がん、閉塞性動脈硬化症、狭心症、心筋梗塞、ADA欠損症、X-SCID、CGD、Leber病、ALD、HIV、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、パーキンソン病、アルツハイマー病などを中心に研究が行われています。
核酸(DNA、RNA)を導入することで、病気を治療する医薬品の総称です。
遺伝子治療薬と大きく異なる点は、遺伝子治療薬は遺伝子を導入し、その後タンパク質を体内で作らせることで治療する技術に対して、核酸医薬品はタンパク質の発現を伴わない治療技術です。
特定の塩基配列や特定のタンパク質を認識して遺伝子発現を抑制したり、タンパク質の機能を阻害する、最先端の分子標的医薬として期待されています。
がんやウイルス感染症を始め、自己免疫疾患、中枢神経疾患、眼疾患、高脂血漿など、様々な疾患に対する治療薬の開発が行われています。
代表的な核酸医薬品として、siRNA医薬品があり、こちらの技術は、RNA干渉(RNAi)という原理を応用した技術です。
RNA干渉とは、細胞内に21~23塩基からなる短い二本鎖RNAを導入すると、これと相補的な塩基配列を持つRNAが特異的に分解される原理であり、この方法を用いて、病気の原因となる遺伝子を破壊し、タンパク質の発現を抑制する医薬品です。